開店までの道のり #3

どんな「本屋」を目指すか

 

自分の店を持つと決めたときに、人によって最初に考えることは違うと思います。
ある人は資金調達の手段であり、ある人は経営理念であり、ある人は立地でもあり…。
私の場合、店舗の場所と初期費用・運営資金についてはアテがありました。(後述)
ですので、どのような「本屋」をつくるのか…つまり、どんな本を置きたいか。
その構想を練るところから私は始めました。
私が店舗をかまえようとした場所の近くには、徒歩15分圏内に文教堂あきる野とうきゅう店、車で5分ほど行けば未来屋書店日の出店がありました。
どちらも売り場面積の広い郊外型の、いわゆる町の本屋さんです。
この立地で、同じように町の本屋さんをやる理由はないと思いました。
もし付近に本屋さんがない地域でしたら需要があるかもしれません。
けれどもこのような布陣だと、町の本屋さん(ベストセラーがあり、様々な出版社の新刊が並ぶ本屋)の役割はその2店に勝手にお願いして、私は強烈な個性を持った本屋をやるべきだと思いました。
以前は知らなかったのですが、本屋という姿は「ひとつ」ではなかったのです。
私は、本屋と言われれば大手チェーン店のような、色んな本が所狭しと並べられているものだと思っていました。
でも実際には、様々なお店の一部を間借りしながら転々とする本屋さんや、実在庫を持たないエア本屋さん、あるジャンルに絞ってその本しか置かない本屋さんなど、様々な形態で運営されています。
その中でも、私はジャンルを絞った個性的な選書の本屋さん、というものに興味が湧きました。
どういった選書をするか考えたときに、どうせ自分の店を持つのなら、思いきり自分の好きなものを愛でたいという考えから、自分の好きなものについて考えました。
私が好きなものといえば、まず思い浮かぶのが陰陽師。
小さい頃から妖怪や陰陽師が好きで、私が幼少期の頃に妖怪ウォッチが流行っていたらドハマりしていたかもしれません。(知らんけど)
あとは、動物。
おそらくですが、ジブリ映画「もののけ姫」のサンが狼に乗りながら疾走する姿がかっこよすぎて、その憧れをこじらせてしまった結果だと思います。
幼稚園生のときの将来の夢は「獣医さん」で、それを聞いた、当時通っていた学習塾のようなところの事務のお姉さんが、「これあげる」と佐々木倫子先生の「動物のお医者さん」を全巻どんっ、とプレゼントしてくれました。
生きているモノを切ったり貼ったりすることに挫折したので(当時、釣り上げたばかりの魚をさばけなかった)、獣医さんの夢は諦めましたが、今でも愛読しています。
ありがとうお姉さん。
動物といえば、幻獣も大好きで、特にドラゴンを愛でていました。
というか、翼の生えたものが好きなので、鳥類をこよなく愛しています。
そして、私を語る上で欠かせないのがゲームです。
「本が好き」と語る人たちの思い出には、小さな頃から本がありました。
両親が本好きで、部屋に大きな本棚があった。
図書館によく連れていかれた。
お年玉をもらったら本屋に駆け込んでいた、などなど。
しかし、私にとって「それ」はゲームだったのです。
父もたいへんゲームが好きで、私は特殊な環境で育ちました。
私とふたつ下の弟がなんとなくテレビを眺めていて、ゲームのCMが流れて「これ面白そうだね」なんてつぶやくと、父が「なに、これ欲しいの?」と聞いてくるのです。
そこで「うーん…よく考えたらそうでもないかも」と答えればそこまでなのですが、「欲しい!次のクリスマスね!」とか「誕生日ね!」と言うと、その2、3日後には机の上にそのゲームがぽんと置いてあるのです。
これ、中学生くらいまで普通のことだと思っていたんですよね…。(恐ろしい)
この父の習性のおかげで私と弟は、なんでもかんでも欲しいと言わない(買ってきちゃうから)、それなりに考えて欲しいものを選ぶ、というクセがついた気がします。
私の好きなものについてこんなに長く語ってしまいましたが、全然本の話してないじゃんと思ったみなさん、ここからですのでどうかブラウザバックしないでください。
今までの話をまとめると、私が好きなものをつめこんだ本屋の本のラインナップは、「陰陽師で動物が出てきてゲーム愛に溢れた本」。

「カオスすぎぃ」

と思わず口に出ていました。
まだ自分が正常な思考回路を持っていることに安心もしました。

「というか、ジャンル全然絞れてねぇ」

とも思いました。
せめて、「陰陽師」か「動物」か「ゲーム」に絞る必要があります。
陰陽師や妖怪に関する書籍はたくさん存在しており、選書には困らなそうですが、なぜか「チガウコレジャナイ」と感じました。
こういう直感は大事にした方がいいってひいおばあちゃんが言ってた。(嘘)
私のキャラクターと合っていなかったのかもしれません。
それにこのコンセプトなら京都で店を開いた方が良さそうです。
動物はジャンルが広すぎて、それならさらに狭める必要があります。
例えば、犬だけ、猫だけ、とか。
それなら鳥の本だけ集めた本屋にしようか。鳥カフェも併設したらコンセプトばっちり。
でも幻獣も捨てがたい。
と、2つの間で3日間さまよったのでボツにしました。
ゲームの本については、秋葉原とかでやった方がいいのでは、という立地の点以外デメリットは特に見当たらなかったのですが、個人的に、ゲームを仕事と絡めるのは違和感がありました。
私にとってゲームは娯楽です。
ゲームは大好きだけれど、ゲームを作りたいとは思えません。(そもそも能力値的に無理)
一方的に享受する側、つまり私は消費者でしかないし、消費者でいたいと思います。
この考えだとそもそもの「好きなことだけして生きていきたい」、「好きな本しか並べない」という根底が覆ることになるのですが。
きっとこの矛盾は、私の性格というか、ポリシーのせいだと思います。
私は常に客観的であることを心がけています。
それと、ひとつの物事や状況を多角的に捉え、常にフラットな立場でいようとします。
(相手の機嫌が悪く八つ当たりされたら、「もしかしたらこの人には長年同棲している恋人がいたけど、たった今フラれたばかりなのかもしれない」とか考えてしまう)
なので意見するときは、必ず最初に「私は」とつけます。
「私はこう思うけど、あくまで個人的な見解だから、あなたが受け入れる必要はない」という意思表示で。
つまり自分が自分の主観にまみれてしまうのが怖いのです。
むしろ、以前は「主観まみれ」の人間だったような気がします。
いつその考えが変わったかといえば、おそらく大学時代の部活動だと思います。
自尊心をめっためたにされたとき、ふと今までの自分を振り返ってみて。
自分の何気ない態度や一言が、まわりの人を傷つけていたかもしれない。
それが怖くてたまりませんでした。
話を戻しますと、先ほど挙げたような本を置くと、そこは私の主観まみれの空間になるわけです。
それが評価されようが否定されようが、私自身が違和感を覚える空間で仕事はできないと思いました。
じゃあどうしよう、と煮詰まったとき、ふとある人の言葉が頭をよぎりました。
私はよくYoutubeでゲームの実況動画を見るのですが、中でもよく見るのが「はこ」さんというゲーム実況者の動画です。(というか最近は、はこさんのものしか見ていないかも)
そのはこさんが、以前「どうぶつの森(住人である動物たちと村で暮らすスローライフゲーム)」の動画の中で、

「好きなどうぶつの森キャラクターはだれですか?」

というリスナーからの質問に対し、

「いや、僕にとって彼らは友達とかではなく、あくまでビジネスパートナーなのでそういう感情はないです」

と返答していました。
動画を見ていたとき、私は「いや、はこさん考えるの面倒くさいだけでしょw」という感想を抱いたのですが、しかもその言葉に深く感動して覚えていたというものでもないのですが、なぜかこの言葉がふっと浮かび上がってきました。
はこさんという方は、もちろんゲームが好きで実況者をやっているものの、お金を稼ぐための手段とも考えていて、でも媚びるような動画は作らない(視聴者からの〇〇のゲームやってください!は大体聞かない笑)という方です。(勝手な憶測です。異論は認めます)
好きだけど、好きなだけじゃない。
ちょっと離れた距離からそれを見ている、そんな感覚で動画を投稿しているのだと思います。(たぶん)
「そうだ、私もそういうものを探そう」と思い、さっそく考えてみたのですが、私にとってそれは「本そのもの」でした。
もちろん本は大好きだけど、ゲームの「セーブが完了しました。続けますか?」の「はい」の誘惑ほど魅力的ではないし、お昼ご飯を食べたあとの昼寝ほどの快感は得られません。
本なら、好きだけどある程度客観的でいられるし、私の良きビジネスパートナーになってもらえる、そう確信したところで、「何の本を置こう?」という振出しに戻りました。
めでたしめでたし。
と、ここで終わるわけにもいかないのでもう少しだけ考えると、「本の本」の存在を思い出しました。
本や、書店、出版社などについて書かれた本です。
このジャンルなら、好きな話題で、一歩引いた選書ができる、そう思いました。
個性的な個人書店には、こういう本がつまった棚が必ずと言っていいほど存在します。
それはどの店主さんも本が好きで本屋をやっているから、そういう本が好きなのです。
その棚を、店舗全体に拡充することができれば、それなりに面白い本屋になりそうだったので、もう少し具体的に考えることにしました。
他店さんの棚を参考にすると、そういった棚には出版業界が作り上げてきた歴史についての本や、書店員のエッセイ、本屋や本のガイド本など、ノンフィクション・エッセイ系のものが主でした。
ただ、このラインナップをそのまま取り入れるのではあまりに芸がないので、選書に「私らしさ」が出ないか、もう少し考えてみました。
10秒ほど考えて、「フィクションも混ぜて置いたら面白いかもしれない」という結論に至りました。
つまり、編集者のエッセイの横に編集者が主人公のライトノベルを置く、漫画家になるためのハウツー本の横に漫画家を目指す主人公が奮闘するコミックを置く、そういった要領で棚を作るということです。
私自身、こういったジャンルの本を読み始めたのは、この業界について勉強するためでした。
特殊な業界である上に、あまりに無知だったものですから。
書店員初心者や本屋に興味がある人、漫画家・小説家になりたい人、その裏側が知りたい人、出版社に勤めたい人、昔の私が求めたように、そういった「参考書」を求める人のための本屋はどうでしょうか。
もし従業員を募集するとしたら、将来本屋をオープンしたい人や、漫画家・小説家デビューを目指している人たちを雇うというのも面白いかもしれません。
いずれこの本屋が「業界の登竜門」と呼ばれるように、そんな野望を抱きました。
2018年6月頃のことです。